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かいたものたち。

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僕の世界は君が作ったんです(赤←黒)

――君に伝えるなら、どう言えばいいのでしょうか。

窓際の席で黒子テツヤはぼんやりとそんなことを考えていた。
空は快晴。雲ひとつなく、青が一面に広がっている。
机の上に広げられたノートには、シャーペンで書かれた文字が少し。国語の授業のノートで、横書きノートの向きを縦にして使われている。内容は夏目漱石の『こころ』何度か目を通した内容だ。

国語の授業が黒子は好きだ。
本の世界は面白い。
文学作品を読んでいると、自分が生まれる遥か前の人間すら同じようなことを考えていたりするのに気づく。人間は全然変わっていない。言葉の使い方がちがうところがあるが、なんとなくその古臭さすら心地よい。そんな日本語の響きが、好きだなと思う。
バスケをしている以外の時間は黒子は本を読むことに使うことが多い。

本を読む習慣は中学1年を半分過ぎたころからだ。
影響は同じ学年の、赤司征十郎による。
青峰と部活後練習をするようになり、バスケがさらに楽しくなった。けれど現実は努力は無駄だといわんばかりで、バスケをやめようと考えたときに、黒子を今の位置まで引っ張り上げたのはその赤司である。
3軍で2軍にすらあがれないと思われていた黒子が、1軍となり、レギュラーとなるころには、自然といわゆるキセキの世代と呼ばれることになるメンバーと帰宅することが多く、そのなかに赤司もいた。
個性が強く馬鹿騒ぎをするようなメンバーの中、赤司は少し離れた場所で読書をしていることが多かった。
人間観察をするのが好きな黒子はそんな赤司の様子をしばしば見ていた。
あいもかわらず騒ぐメンバーをよそに、読書に没頭する赤司に、ある日黒子は声をかけた。
「それ、おもしろいですか?」
ただの、興味本位だった。とくに深い意味もなく、問うた。
「ああ、おもしろい。黒子も読んでみるか?」
「え」
「人間が如何に変わってないかよくわかる」
そういって、赤司は読んでいた本を黒子に渡した。唐突の動作に黒子は驚きながらその本を受け取った。
「オレはもう読んだから。返すのはいつでもいい。じゃあ、ほどほどにして帰れよ」
そういって赤司は校門前から一人去っていった。
渡された本は、夏目漱石で『こころ』とだった。
そして、黒子は試しに読んでみることにした。
気がつけば没頭していた。
人間について語る本が面白かった。
人間観察を好むということもあったが、もしかしたら彼が渡してくれたから、というのもあるのかもしれなかった。

「おもしろかったです」
次の日の部活の終わったあと、黒子は赤司に本を返していた。
「もう読んだのか」
「ええ、つい」
「つい、ね。そんな目の下に隈を作るほどがんばらなくてもいいだろうに」
ふっと、赤司が小さく笑った。
――そんな表情もするのか。
黒子は心の中で驚いていた。黙々と、ストイックに、あまり表情を変えない彼が、小さく笑ったことに驚いた。
「おもしろかったので、ほかに読んでみたいと思うんですけど、赤司君、おすすめってありますか?」
思わずそんな言葉が黒子の口から出た。変わる表情を見ていたかった。彼を知りたかった。本を読むことではなく、赤司征十郎、そのものの人間が知りたくてたまらなかった。
「そうだな、太宰治か……漱石か……。なにかお前によさそうなものを明日持ってくるよ」
すこし考え込み、赤司はそう答えた。
「読書に興味を持ってくれたのは嬉しいが、寝不足で部活がまともにできない状態にはなるんじゃないぞ」
「気をつけます」
「じゃあ、また明日」
そういって、赤司は帰っていった。

「ほら、黒子」
赤司の手には一冊の本。それが黒子に突き出されていた。
「いろいろな世界に触れた方がいいかと思って今回は太宰にしておいた」
「ありがとうございます」
謝礼を述べながら、差し出された本を黒子は受け取った。
「今度、」
「ん?」
黒子の言葉に赤司は首をかしげた。
「今度、僕に本の選び方を教えてください」
「別に構わないが。じゃあ、明日の昼休み、図書室でいいか?」
「はい。ありがとうございます」

そんなふうに、黒子は本を読むようになった。
古くも新しい世界。
赤司とのつながり。
どれも、黒子には心地の良いものだった。
バスケ部を離れても結局それだけはやめられなかった。


ノートに目を移す。
ぼんやりと考え事をしていたため、黒板の文字は黒子が今まで取っていた部分より進んでいる。急いで書き写す。
写しながら、考える。
赤司に何を伝えたいのかを。
分かたれた道のなかで、それでも求めるつながりを。

――ひとまず「ありがとう」でしょうか。

心の中で考えたその言葉は音としては発せられることはないけれども、黒子は『こころ』の文字を指でなでながらそんなことを考えていた。

(僕の世界は、君が作ったんです)

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僕の世界は君が作ったんです(赤←黒)
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