いろんなことを斜に構えていた気がする。それはもう、色々なことが、オレを期待させて、裏切るから。新しい何かに挑戦してはみるけど、すぐにハイおしまい、となる。どうせもう何も見つからないんスよね。そう思って、世界を斜めに見てた。モデルの仕事も面白かったし、なくちゃならないもんなんて他にないんじゃないかって。勘違いする女の子は少し扱いには困るけど、自分に興味を持ってくれる異性がいるのはそりゃァ年頃の健全男子としては嬉しいところで、むげに扱うなんてことはヒドいと思うし、これもモデルのイメージを落とさない程度には振る舞わなくちゃならないスかね、とは思っていて、だからオレは女の子には優しくすることにした。別にその中から彼女を得ようとかそんなことは考えてなかった。彼女たちが、オレの空虚を埋めてくれるだなんて思ってなかったから。傷つけない程度に、そればかり考えて仮面を被った。好意を寄せてくる奴なんて、オレのモデルの顔だとか、作りものの俺のことが好きだとしか思えなくて、じゃあ本当のオレは見えてるんスか? そんな怒りに似た叫びがのどを突っかかるけど、ただ、当たり障りなく断るしかなかった。そんな、自分を偽ってばっかりの毎日が楽しいはずがない。心の中ではちょっと荒れていて、ときどき人を傷つけることも言ったりやっちゃったりしてた、と思う。
そんなときに会ったのが青峰っちだった。
青峰っちのプレイは自由で、奔放で、底が見えなくて。目を奪われた。もうなんか頭が一杯になっちゃって、オレもあんな風にやってみたい! って舞い上がった。すごく興奮した。今までにないくらいの気分だった。すぐさまオレはバスケ部に入部した。最初は雑用も多くて、ボールに触れる時間も短かった。しかも青峰っちははるか彼方の人で(入ってから3軍まであるような巨大な部活だと知った-強豪校だということは知ってたんスけど-)、すぐに一緒にできるかといったらそうじゃなかった。でも、オレにはセンスがあったらしく、2週間で1軍まであがることができた。ほんの少しそれは優越感に繋がってたと思う。そんなオレに教育係としてついたのは黒子っちこと、黒子テツヤだった。
驚きの多いバスケ部の中で、彼は他のメンバーとは真逆の驚きをオレに感じさせた。
彼のバスケは、つまるところ--凡人以下だった。素人でももっと上手い奴がいるだろっていう。
なんでこんな奴がこんなところに。しかも、なんでオレの教育係なわけ?
腹が立った。イライラした。新しい発見があったからといって、オレの心は荒んだままだっだ。レギュラーみんなが彼を認めている意味が全く理解できなかった。なんでなんスか? なんでなんスか? ってクエスチョンマークが何個も頭の上に浮かんだ。この時ときのオレは、表面だけでみられることを嫌っていたハズなのに、つまるとこ黒子っちの表面しかみていなかったということだった。体格は仕方がないとして(食は細い気がしたけど)、シュートは外す、ドリブルは簡単に奪えるほど拙い。これでどうやってバスケをするのかと、呆れ果てた。なのに、彼は1軍で、しかもレギュラー。限られた人間にしかいけないような場所。3軍にだってもっとましな奴がいるだろうに、なぜこんな奴が。これは、オレだけの気持ちではなかった。現に、彼や他のレギュラーがいないロッカールームでは誰かが陰口を叩いていた。部員数100人を越える部員のほとんどは黒子テツヤを理解していなかった。黒子っちは表面だけじゃわかるような存在じゃなかった(中には彼の存在の薄さのせいで存在自体を知らない奴も1軍にいたっスけど)。彼は試合の、コートの上で、活きる存在だった。
結局オレは黒子っちの本領発揮を見てからは、見事に彼のファンになっていた。それからは、尊敬の意を表して、「黒子っち」と呼んだ。初めはわずらわしそうにしていた黒子っちも、次第にオレになれたらしく、やわらかい笑顔をみせてくれるようになった。黒子っちを知ることができた。
黒子っちや他のレギュラーメンバーは、黒子っちのことを「影」と称していた。見事なパス回しで周りを活かすことができる。黒子っちがいると面白いくらいパスが通った。パスが回ってくるのをわくわくしながら待った(青峰っちの方が相性がいいとかで、オレに回ってくるのはちょっと少なかったことが残念だったスけど)。レギュラーのみんなも一人ひとりクセがあり、長所があり、尊敬すべきところがたくさんあった。退屈な毎日は、いつのまにか、色のあふれた楽しい毎日になっていた。
荒んだ心はいつの間にか消えていた。
斜めだった世界も、真っ直ぐになったような気がした。
きらきらした日々だった。でも、気がつけば、影はいなくなっていた。バスケ部はそれでも勝ち続けた。欠けた世界はそれでも回っていた。影なんかまるで最初からなかったようだった。それでも、オレは黒子っちとまたプレイしたいと思ってた。
でも、オレはバカだったのだと、あのころを振り返って思う。
恥ずかしいことに、あのころは結構浮かれていた。子供だった。確かに年齢的に子供だったけど、空気を読んでいるようで読めていない、抜けた奴だったっスね、オレは。自分が楽しければよかったんだ。今でもそれはある。だけど、中学生のオレは、それがすごくあらわれてて、青峰っちの苦しみも、黒子っちの悩みにも気づかずにいた。きっとああなら楽しいに違いないと勝手に思いこんで羨み、憧れ浮かれてた。緑間っちの言葉もよくわかってなかった。
そんなことを高校生になってしばらくの時間を過ごしてようやくオレはわかってきた。オレたちだけが影として活かせると思っていた黒子っちは、新たな光を得て、影を濃くしている。彼は充実しているみたいだ。黒子っちがバスケを辞めなかったことを嬉しく思う一方で、ズキズキと胸が痛む。あの影はオレたちのものだったはずだ。あの笑顔と共にいたのはオレたちだったはずだ。だけど、違う場所で彼は笑ってる。それが、ツライ。
ねえ、黒子っち。黒子っちは寂しくないんスか? オレは寂しいっス。と、自分だって新たな場所を得て笑ってるのに、それでも、オレは、彼らに執着する。彼らを恋しがる。ホント、オレってば自分勝手っスね。ああ、イヤになる。世界はまだ、斜めだったんスかね?
「普通のことなんじゃないですか?」
さらり、と。オレの悩みなんて軽いことのように。
「誰だって、人間関係は気になるものだと、思います」
オレの正直な気持ちを黒子っちは肯定した。それだけで、心が軽くなった気がした。
「また、言っていいっスか?」
「迷惑です」
「ちょっ、それはないっすよおおお黒子っちぃぃぃぃ!!」
「まあ、たまになら・・・・・・。マジバのシェイク一個で手を打たないことも、ないですよ」
「それは現金すぎるっス」
「冗談です」
黒子っちが笑う。夕日が黒子っちを後ろから照らしていた。唇のカーブがなんとなく、色っぽく見えた。
「また、一緒にバスケやってくださいよ、黒子っち! 同じチームで」
返事は、黒子っちの表情でわかった。オレは泣きそうになりながら、笑った。
(たとえ、離れても、あの日々が嘘だったわけじゃなくて、いまも輝きは本当は続いている)
- 作品名
- 泣きそうになりながら笑った(黄→黒)
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